働き盛りの30歳代のやる気・モチベーションが低い理由

昨年実施した弊社の調査結果や、他の機関(※注1)から最近出されている調査結果を見ると、働き盛りの30歳代のやる気やモチベーションが低いという結果がみられています。

その要因を弊社の調査データの分析等から探りました(図表1)。

今の仕事に対して、モチベーションが高い?

(5段階で回答、肯定的な回答者の割合を集計した割合を示す。 正社員5000名が対象)

30歳代の中でも役職についていない層が低下の要因となっている

30歳代の結果をさらに職位別に分解すると、係長や課長といった役職についていない一般社員層(非役職者)のモチベーションが目立って低く、この層の落ち込みがトータルでの30歳代のモチベーションを押し下げていることがわかります(図表2)。

30歳代職位別モチベーションの高い人の割合

背景にあるポスト不足。以前に比べて30歳代で係長・課長といった役職に付く人の割合が低下している

厚生労働省の統計データ(賃金構造基本統計調査)から、30歳代で役職についている人の割合を見ると、近年、その割合が低下していることがわかります。いわゆるポスト不足の傾向です。

H13年とH18年の賃金構造基本統計調査結果(※注2)の比較によると、30歳代で係長についている人数割合は低下しています。

平成13年には30歳代後半で18.2%の人が係長についていましたが、平成18年では16.2%とこの5年間で約2ポイント低下しています。同じく30代前半では1ポイント低下しています(図表3)。

年齢層別 係長層の割合

1990年まで遡り賃金構造基本統計調査結果を調べた第一生命経済研究所(※注3)のレポートによると、1990年から2005年の15年の間に係長についている人の割合が、30歳代前半で14%から約5ポイント低下、30歳代後半で24%から約7ポイントも低下しています。

また課長につく人の割合も30歳代後半で15%超から約5ポイント近く低下しており、この十数年ポスト不足が進んできたことが伺えます。

現在の30歳代は少数精鋭で頑張ってきた層。それにも関わらず報われていない、報われそうにない現実

現在の30歳代について入社からこれまでの時代背景を振り返ると、彼らは1990年代バブル崩壊後の就職氷河期に少数精鋭で入社してきた層です。
多くの企業で、それまでのバブル期に比べて高いレベルの新人が採用できたと感じていた層でした。

そして、その後入社してくる後輩たちも少なく、経済環境も厳しい中で、成果主義の人事制度が急速に広まりギスギスした雰囲気が社内に広まりつつも、頑張ってきた層と考えられます。

それにも関わらず彼らが30代に達し係長・課長といったポストが見えてくる年代になり、待ちうけていたのは、経済環境に影響を受けて歪んだ社内人口ピラミッドからくるポスト不足でした。

更に将来を見通した際にも、バブル入社組の先輩たちの数が多く世代的に重いことからポストで報われる可能性は高くありません。

モチベーションの源泉は何か。調査データの分析から「仕事から得られる成長実感、貢献感、能力発揮感」が強い影響を与えていることがわかる

モチベーションに強い影響を与える仕事や職場の要素について、弊社実施「約5000人の正社員アンケート調査」(2007年実施)結果をもとに重回帰分析を経て有意な項目を抽出してみました。その単相関の高い要素を下記にあげています。

すると仕事を通じて得られる成長実感や、組織に貢献しているという感覚等が重要との結果が得られています(図表4)。

モチベーション向上へ影響の強い「仕事・職場」要素

30歳代は仕事についてどう感じているのか、特に非役職者層についてみると、「頑張っている自負はあるものの、仕事から得られる参画裁量感、成長実感、組織貢献、能力発揮の感覚が乏しくなっている」

モチベーションに強い影響を与える要素を中心に、30歳代を取り巻く状況や感じ方を見てみると次のようになりました(図表5)。

30歳代(非役職)の仕事に関する意識

⇒比較の為、20歳代、40歳代の傾向と30代の非役職社員層を並べて目立つ特徴を記します(特に、20歳代の比較に着目)

  • 期待成果発揮や業務の質については20代以上もしくは同等の自負がある
  • 仕事に対する参画裁量感は20歳代に比べても低く、仕事の責任権限は乏しく裁量を発揮できていないと感じている
  • 組織貢献感、能力発揮感も低い
  • 成長実感は一般的に年齢とともに下がる傾向があるが、40歳、50歳代よりも低い実感しか得られていない

入社後10年程度経ち、業務を覚えて成長し一人前になり、頑張ってきたとの自負はあるものの、次のポストで新たな成長機会(部下をまとめながら仕事を進める、マネージャとしてのリーダーシップやマネジメントについて学び、新たに成長する機会)を得ることがなく(その見込みが薄く)、責任や権限がそれほどない中で能力を発揮する機会も少ない中途半端な位置付けに置かれており、モチベーションを低下させていると推察されます。

(考察) ではどうするべきか?新しい働き方の創造も必要

1990年代からポスト不足による企業内の組織の歪みについて色々と問題視されてきましたが、まさにその影響を被っているのが現在の30歳代になります。

問題の原因は人口ピラミッドの構成等、構造的な問題であるため、解決は容易ではありません。

従来の、右肩あがりの時代に蓄積された知見や経験が役に立ちにくく、一般的に日本でよく参考にされる米国流のマネジメント手法や事例にお手本や解決策も見当たりにくいと考えられます。

そのため、現在この問題に直面し試行錯誤で取り組んでいる各社の好事例を参考にすることが有効でしょう。

従来、考えられなかったような全く新しい仕事のやり方や取り組みが必要になる可能性も高いと考えられます。

しかしながら、先ほどのデータ分析結果を考慮すると、モチベーション低下は、ポスト不足自体の問題だけではなく、ポスト不足により、成長機会や能力発揮の場が少なくなってしまったことが主な原因と考えられます。

そのため、大きな方向性として以下の事が考えられます。

  1. 新しい仕事の進め方の開発:

    ポストによらない成長機会、参画裁量感を与える仕事の進め方の開発が考えられます。

    例えば、プロジェクトチーム制を積極的に導入し、案件の特性に応じてその分野を得意とするミドルを適宜リーダーとして据えて有期で活動する仕組みです。

    または、組織横断型のプロジェクトへ参画させ、日常の業務と一歩高い目線で考える裁量や成長機会の場を提供することも考えられるでしょう。

  2. リーダーの機能分化:

    昨今のミドルマネージャは以前にも増して複雑かつ困難な課題に忙殺されておりプレイイングマネージャが多いことから(※注4)、リーダーとしての機能を分化させて分担することにより、より多くの人に、通常の仕事とは異なる成長実感を得られる役割を付与することが可能になるでしょう。

    例えば、部下育成のメンター役の任命などが該当します。

  3. 明るい将来が見えるキャリアパスの設計:

    キャリアパスの明確化 以前から言われている事ですがキャリアパスの複線化です。

    若い人から見ても真に羨望の的になりうる専門職等としてのキャリアパスを明確にし適切に運用することが考えられます。

※注1:東京海上日動コンサルティング 2008/08/29 発表「モチベーションとメンタルヘルスのマネジメント」
(2008年7月に実施した「仕事に関する意識調査」の結果)
(http://www.tokiorisk.co.jp/risk_info/up_file/200808294.pdf)

※注2:賃金構造基本統計調査の、従業員数1000名以上の大学・大学院卒業者のデータより算出

※注3:第一生命経済研究所 経済調査部 2006/10/31発表「「正社員」化に対する問題提起」
(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0611a.pdf)

※注4:昨今ミドルマネージャは、業績貢献の他に、リスク管理・コンプライアンス、ワークライフバランスのための部下の残業管理、若手の離職防止等、相反する課題に取り組むことが求められており、マネジメントの困難度は以前に比べて非常に高いものと考えられます。

※図表1は9月16日 テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」出演時に紹介したものです。それ以外の図表等については未公表のものになります。

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